恵文社 文芸部

恵文社一乗寺店が提案する、文学同人誌/リトルプレスの即売イベント。 草の根で活動する詩人や作家らによる、自由で風通しの良い作品発表の場です。

第7回 恵文社文芸部 開催のお知らせ

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文学同人誌/リトルプレスの即売と、朗読のイベント「恵文社 文芸部」。
草の根で活動する詩人や作家らによる、自由で風通しの良い作品発表の場です。

第7回目の開催となる恵文社文芸部が、年明け2016年1月17日(日)に決定いたしました。

今回は、第8回小説宝石新人賞優秀賞に輝き、今年9月に光文社より単行本『カプセルフィッシュ』にてデビューを果たした新進気鋭の小説家・大西智子さんと、彼女が参加する同人誌・カムの皆さんによる「大西智子andカム」さんのご出店をはじめ、4~5団体のご参加を予定いたしております。

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会場:恵文社一乗寺店内 イベントスペースCOTTAGE
日時:2016年1月17日(日)11:00~18:00
入場:無料

当日15:00からは、恒例の朗読会も開催!
ご出店の皆さまに自作のPRを兼ねて作品を読んでいただくほか、自由参加で朗読者さまも募集いたしております。
自作の詩や文章を朗読したい/聴きたいという方は、15:00ごろ会場へお集まりください。
当日の飛び入り参加も歓迎いたします。

お問い合わせは、k-bungeibu@outlook.jp宛へメールをお送りくださいませ。
皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げます。

「どう生きるか」の兄弟本

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「君たちはどう生きるか」
この小説らしからぬ題をもった小説は今からおよそ八十年前、哲学畑出身の図書館員であった吉野源三郎が、主任をあずかる年少者のための読み物叢書の締めくくりとして上梓しました。ちょうど日中戦争の発端となる盧溝橋事件が勃発した年で、日本が大きな戦争へ急速に傾斜してゆく時勢のなかでの発表でした。

主人公は十五歳の少年、あだ名はコペル。旧制中学に通う彼は、ある日年若い叔父に連れられて出かけた銀座のアパートの屋上で、目まいに似た「妙な気持」に捉えられます。それからというもの、見聞きすることすべてが以前とは違う色味を帯びて眺められ、答えの簡単には得られない疑問への考えがふつふつと湧き出てくるのでした。

やがて彼が遭遇する身を切るような辛い事件、それを「おじさんのノート」を通して温かく見守る叔父のまなざし。あくまで少年のもつ等身大の実感に寄り添いつつ「大人になること」や「モラルの在り方」についてやさしく説いた不世出の物語です。

現在手に入る岩波文庫版では、発表当時すでに作品中の叔父さんの年齢にありながら、世界認識の客観化を少年の成長に託して見事に展開する手際の良さに震撼し、「ものの見かた」を啓かれたという丸山真男による回想が付録されています。こちらも、本編のさらに深い読みへ誘う手引きとして非常に優れています。

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「僕は、そして僕たちはどう生きるか」
こちらは今から四年前、東北震災の発生直後に作家・梨木香歩がまとめあげた、平成のコペル君の物語です。十四歳、一人暮らしのコペル君は、休日に叔父と連れ立って、自らの意志で学校へ行くのをやめた親友の宅を訪ねます。旧家の大きな屋敷で独り、戦前からの蔵書に囲まれて暮らすユージン。久々に言葉を交わす二人の間には何か気詰まりがあって、お互い戸惑いを隠しきれずにいます。

そこへ次々と集まり来るあらゆる境遇の人びと。秘密を抱えた従妹のショウコ、家を出なければならなくなった少女インジャ、兵役服務中に友人を亡くしたオーストラリア人のマーク。さらには、かつて宅地開発による自然破壊と一人闘った祖母、戦時中召集に抗って山間の洞穴へ身を隠した男……。

それぞれの切実な事情を持つ人の運命が、見えない引力に導かれひととき交わり、一種特殊な磁場が形成されます。そこから浮かび上がってくるのは、昭和のコペル君の時代に空気のように存在し、現在はなきものとして隠され続けてきた一つの事柄。


今このとき併せて読むことで、互いに互いが時代と共鳴しあって忘れがたい読書体験をもたらすであろう物語をご紹介しました。

第6回 恵文社文芸部 開催のお知らせ④

いよいよ明後日18日(日)11:00〜開催の「第6回 恵文社文芸部」。
今回の記事でご紹介するのは、毎回常連でご参加いただいている文芸誌「3分」です。

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京都在住のレザークラフト作家・大谷敏子さんが編集長をつとめるビジュアル文芸誌「3分」。毎号、特色あるゲストの執筆者が紡ぐ物語と、それに触発されて大谷さんが描くイラストレーションから構成される、手のひらサイズの小冊子です。
第4冊目となる最新号『3分、泉子』は、京都でアンティークソングのコンサートを企画、また自らも童謡や抒情歌を作詞・作曲する詩人・歌い手の泉子さんをゲストに迎え、可憐でどこかメランコリックな雰囲気のある一冊に仕上げられています。表紙に使われた写真は泉子さんの撮影になるもので、京都・浄土寺にてひっそりと店を構える、アンティーク・古書・喫茶の「迷子」さんが舞台だそうです。
イベント当日は泉子さんも売り子さんとしてご参加いただく予定。運が良ければご本人による朗読を聴けるかも知れません。
文芸の香気豊かな会場で、皆さまのご来場をお待ちいたしております。

第6回 恵文社 文芸部

当店が提案する、文学同人誌/リトルプレスの即売イベント「恵文社文芸部」。

草の根で活動する詩人や作家らによる、自由で風通しの良い作品発表の場です。

場所:恵文社一乗寺店内イベントスペースCOTTAGE
日時:11:00~18:00(15:00ごろ~朗読タイムを予定)
入場:無料(ドリンクの喫茶営業あり)

当日会期中は喫茶「not bad coffee」の出店有り。ハンドドリップによる温かい珈琲をはじめ各種ドリンクをご用意。 喫茶のみのご利用も可能です。

第6回 恵文社文芸部 開催のお知らせ③

今週末18日(日)に開催が迫りました「第6回 恵文社 文芸部」。 引き続きご出店者さまをご紹介いたします。

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こちらは今回初参加、相沢祐香さんと冨永敦子さんの共作によるリトルプレス『共感覚、例えば果汁。』 出店に際して以下のコメントをいただきました。

ベルリンの壁が崩壊したあの年に日本で生まれ、すくすく育ちながらもそれぞれが異なった方向に人生をこじらせた女二人が、たまたま京都の小さなシェアハウスで出会い、一年共に生活しつつそれぞれが温めていたブログの記事を元にリトルプレスを作りました。 もともと何かしらの形になるとも思わず、どこの誰に読まれているのかもわからず、ただただ書き連ねて吐き溜めていたゴミの中からもしかしたらキラリと光る宝石があるかも(ないかも)しれないと思ったり(思わなかったり)しながら制作。お互いのブログを読みあい、それぞれが選んだ記事をベースに、一人十日分の記事を集めて収録しました。また、本書のためにお互いにお題を出し合い論じた書き下ろしもあり。 もはや無意識の中から生まれた言葉たちが文芸となり得るのか甚だ疑問ですが、ある種のコンテンポラリーブンゲイとしてお楽しみ(お許し)ください。

第6回 恵文社 文芸部

当店が提案する、文学同人誌/リトルプレスの即売イベント「恵文社文芸部」。

草の根で活動する詩人や作家らによる、自由で風通しの良い作品発表の場です。

場所:恵文社一乗寺店内イベントスペースCOTTAGE
日時:11:00~18:00(15:00ごろ~朗読タイムを予定)
入場:無料(ドリンクの喫茶営業あり)

当日会期中は喫茶「not bad coffee」の出店有り。ハンドドリップによる温かい珈琲をはじめ各種ドリンクをご用意。 喫茶のみのご利用も可能です。

海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録 (平野義昌 / 苦楽堂)

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すっきりした清々しいカバーの白さに目がひかれて手に取ってしまいます。水色のオビとの組み合わせはじつに涼しげで、背の部分に記された「今、本屋の現場で働く仲間たちに」の殺し文句。また、奥付を確認しようと巻末のページをめくってびっくり! 本文・見出し・小見出しにそれぞれ使用されたフォントのほか、カバー紙、本文用紙から花布、スピンに至るまで仕様がこと細かに記される手の込みよう。ボール紙の種類まで掲載する本を見たのはこれが初めてです。

付録の索引、年表を見ても一冊に込められた熱量の高さが計り知られます。本書は2013年に閉店した、神戸は元町商店街の本屋さん「海文堂書店」について、その最後の10年間を従業員として店頭で支えた著者が綴った回顧録です。内容は副題にある通り、街の一書店の「記憶」と「記録」の二本立てで、前者は著者自身の思い出や元従業員からの聞き書きをまとめたもの、後者は99年に渡る同社の歴史をやさしく紐解いた読み物になっています。

仕事柄、とくに私が興味深く読んだのは、店舗が阪神淡路大震災に遭遇した際の実況とそこからの立ち直り(あるいは成り行き)、そして閉店の顛末です。様々な立場でお店にかかわる人びとが、そのときそこで、どのように動き、立ち回ったか。個人の日記や店日誌に即してくわしく記されているので、ぐっと我が身に引き寄せて考えさせられました。

一方で、すこぶる楽しかったのは元従業員の方々による証言、というには堅すぎる思い出話やエピソードの数々。接客や棚づくりにかんして、書店員にとっては苦笑まじりに頷けるものから、なるほどの技ありテクニックまで、お客さんには本屋の現場をかいま見ることのできる貴重な報告で、がぜん活き活きと著者の筆も乗っているようです。

ところで私自身は、閉店の報せを聞きつけ、その半月ほど前に電車を乗り継いで一度きり訪ねただけに過ぎないので、接客や品揃えについていえることはありません。ただ、お店の間取りや棚の配置、そこでみた光景、印象はよく憶えています。店内は明るく、きびきびとした節度が保たれつつも、寛いだ気分で品定めに耽ることができる安心感。あくまで市民の生活に寄り添いながら、心地よく知を刺激してくれる開かれた空間。

その日は晴れた平日の昼下がりで、お客が多く、ざわざわした慌ただしい雰囲気のなかにも、最後まで書店としての役割をまっとうに果たそうとする気持ちのよい心意気を感じました。そして本屋ならではかも知れませんが、ゴールを間近にした商店とは思えないほど品数は豊富で、ほしい本がいくつも見つかりました。数時間かけて選んだ末に、私は古書を一冊と、文庫本一冊を求めて、あの印象的な帆船のあしらわれたブックカバーをかけてもらい、かすかに潮の香る商店街をあとにしました。本書で実況的に描かれた最後の日々の、わずかな時間そこに自分がいられたことをいまは嬉しく思います。

 

(保田)

第6回 恵文社文芸部 開催のお知らせ②

来月18日11:00よりスタートの「第6回 恵文社文芸部」。引き続きご出店の皆さまをご紹介してまいります。

今回は2度目のご参加となる、関西を拠点とする文芸同人誌「ぱさーじゅ」さん。昨年には、同人の山本文月さんの作品「サンクチュアリ」が「文學界」へ掲載されるなど、読み応えある作品を多数掲載する実力派のグループです。

今回はバックナンバー含め31、32、33号をお持ちいただく予定。ご出店に先立ってコメントをいただきました。

読書は旅に似ています。
旅人の行き交う道に軒をつらねる店の数々、それが『 ぱさーじゅ』です。店主(作者)自慢の手作りの品(作品)をどうぞ、お手にとって味わってみてください。古今東西の多種多様な品を取りそろえております。その作品世界を、時空をこえて 共有していただければ嬉しいです。

皆様との10月18日の出会いを心待ちにしております。

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第6回 恵文社文芸部 開催のお知らせ

来月10月18日(日)の開催までひと月を切りました「第6回 恵文社文芸部」。当日のご出店者さまについて、こちらより順次ご紹介してゆきます。

まずは、当店売行き良好のリトルプレス『闇夜色の書』でおなじみ、伊藤裕美さんの個人レーベル「mille-feuille(ミルフィーユ)」。今回、絶版作品の待望の新装版お披露目ということで、関東よりご参加いただきます。伊藤さんご本人からコメントをいただきました。

読んでいる間は愉しく、読後はいつまでも書棚に飾って置きたくなるような、美しい本作りを目指しています。

品切になっていた「寄宿舎の秘密」に続編を付し、装幀を一新した新装版を文芸部にて発売いたします。

また、「闇夜色の書」に登場する釦ブーツのイラストや、ヴィンテージレース/紙を使ったイニシァルカードも新発売。

「オデットとオディール」ほか、残り数冊となっている「灰狼」「人形院」「悪魔の花束」などの旧作も出品いたします。

神奈川県からの参加です。
この機会に是非、遊びにいらしてください。

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